眼前の小利
一匹狂えば千匹狂うというが、これは何も、馬だけにかぎったことではない。人間でも、一人がちょっとした心得ちがいをしたならば、それにひきずられてまた多くの人が道を誤る。ことに、それが利欲にかかわった問題となると、とかく人の判断は狂いやすい。そして眼前の小利にとらわれる。
眼前の小利にとらわれるな、とは昔からのことわざであるが、小利にとらわれていては、結局は損をする。その損も、単に自分だけで終わるならまだ罪は軽いが、今日の世の中のように、人と人と、仕事と仕事とがたがいに密接につながっているときには、一人の損がみんなの損となり、その心得ちがいは大へんな結果を生む。(中略)
別にむつかしいことをいうつもりはない。またいっても詮ないことだと考えてもいない。こんなことは結局、人の良識に訴えるのが根本で、だから何度も何度もあきずにいいたいのである。
松下幸之助「道をひらく」
この言葉を聞いて、在庫管理の考え方で出てくる「ブルウィップ効果」という言葉を思い出した。ブルウィップとは、雄牛用の鞭のことで、根本のちょっとした動きが伝播し、鞭の先は相当な振れ幅になるということである。こうして人の心を考えてみても、少しの心得ちがいが大きな損を生むという。いかに経営者の考え方を一つの方向にしていくのが難しいか、松下翁をもってしても何度もあきずに言わざるを得なかったとは、それだけ大切なことであることを再認識した。